先日、とある企業で、ハラスメントに関する研修の講師を担当するお仕事がありました。
私が担当したのはもっぱら「セクシュアル・ハラスメント」の対策についてですが、もともとセクハラ問題にはいち早く取り組んで対策を講じてきた企業でしたので、セクハラに関しては、事前の対策、事後の対応も比較的うまくいっており、申立件数も減りつつあるとのことでした。
それに対して、最近は、パワーハラスメントなどの相談のほうが増加傾向にあるようです。
パワーハラスメントは、厚生労働省の定義によれば、
「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」(平成24年厚生労働省「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキンググループ報告」より)
とされています。

もちろん、業務遂行上、厳しい指導が必要な場面はたくさんありますし、相手を傷つけることを恐れるあまり部下を叱ることもできない、というのでは困ります。
しかし、職場において、「指導」「叱責」の名を借りて、相手の人格や尊厳を傷つけるような「いじめ」「嫌がらせ」が行われることは、放置することはできません。
問題は、適切な「指導」「叱責」と、違法なハラスメント行為の境界線はどこか、ということになるのですが、セクハラのケースと同様、両者の立場や信頼関係の程度、背景事情とそのときの状況、指導の態様、言葉、など、様々な要素を総合判断することになりますので、「ここに気をつければ、大丈夫!」と明確に言えないのが、難しいところです。
一つ思うところがあるとすれば、ハラスメント行為は、相手の「人格や尊厳」を傷つけるが故に許されないものですから、叱責したり指導したりするときには、その言葉が人格非難にならないようによくよく注意し、その人の具体的な「行為」に向けて叱り、改善を求める、ということでしょうか。
部下がミスをしたときに叱るにしても、叱責する対象はあくまでそのミス「行為」であり、怒りの感情にまかせて「これだからお前は駄目なんだ」、「そういう性格だと周囲が迷惑する」、「社会人として失格だ」などと、人格を否定するような言葉を言ってしまわないように気をつけることです。
とはいえ、怒っているときには、自分自身に対し「この言葉は人格非難になっていないか?」などと冷静にチェックを入れることは難しいので、怒りの感情が大きいときはすぐに相手を叱責するのではなく、自分自身が少し落ち着いてから、機会を設けて指導する、というように、普段から工夫をしたほうがよいかもしれません。
また、ハラスメント行為による被害は、そのような不適切な行為が「継続的に」行われることで深刻化し、大きな事件になってしまいます。他者を指導・監督する立場にある人にとって、指導の中でつい言い過ぎてしまった、配慮の足りない言葉で相手を傷つけてしまった、ということを完全に避けるのは困難なことですが、同じことがいつも繰り返されていないか、同じ相手をいつも厳しく叱責していないか、ときどき冷静にチェックしてみて下さい。
セクハラもパワハラも、(強制わいせつや暴行等の犯罪になりうるような違法行為は別として、)行為者は、「コミュニケーション」や「指導」等というもっともらしい理由、言い訳で自分自身に目隠しをしてしまい、それが逸脱行為だと自覚しにくいもの。
深刻な被害を防ぐには、その兆候に早期に気づいて歯止めをかける、周囲の目も大切になります。
講師として参加した研修でしたが、他の方々の貴重なお話を聞いて、いろいろ考えさせられた一日でした。
(弁護士 髙城)